ちびちび吉川君v
―長尾・進藤・高田/吉川―
A&Kカンパニー秘書課秘書室の中堅どころ、長尾・進藤・高田・吉川。
長尾・進藤は同期で、その下に高田、吉川と続く。
吉川の下は新人の杉野遼二、長尾・進藤の上は秋月和也と橋本の同期生コンビがいる。
秘書課は他部署の女性社員から見る分には非常に優雅で華やかな集団であり、男性社員からはホストクラブと呼ばれている。
しかし外の芝生は青く見えるのと同じで、彼らもまた日夜激務と戦っている企業戦士たちなのだ。
秘書課の中では社内ワイドショーネタを大きく占める中堅四人など、その最もたるところと言える。
今日もさっそく、長尾が執務室に呼ばれていた。
「長尾君、先月顧客リストに追加された企業の資料はまだですか」
「はい、あとニ、三日掛かると思います。まだいろいろと営業部で確認しなければならない・・・」
「明日下さい」
しまった・・・二、三日掛かる理由をいろいろで片付けてしまったことが、聞き入れられなかったのだと悔やんだものの長尾にもプライドがある。
―せめて最後まで話を聞け!くそったれ!!―
わずかに残された意地が返事を拒む。
「では宜しくお願いします」
和也は二度も言い訳を聞くつもりはないので、長尾が返事をしようがしまいが関係なかった。
秘書課は他部署に比べて縦の要素が強い。つまり縦割りなのだ。
力関係は上から下へ。絶対服従。
和也が明日と言えば明日なのだ。
ガタンッ!! ドスンッ!!
「長尾、また・・・仕方のないヤツだな。ほら、杉野君が笑っているじゃないか」
案の定不貞腐れて帰って来た長尾に、進藤の注意が入る。
「誰が笑っているって・・・」
長尾は思いっきり不機嫌な顔を遼二に向けた。この際誰でも良い。
「進藤さんっ!誤解されるようなこと言わないで下さい!!」
いきなり引き合いに出されて、それも一番関わり合いになりたくない場面に。
遼二は猛然と抗議したが、その相手もこれまたやり難い。
無意識のうちに避けるクセが付いてしまっているのか、微妙に高田の陰に身を隠しながら、という感がしないでもなかった。
「ちょっと!杉野君ってば!僕を盾にするの、やめてくれない!」
前後ど真ん中の席で、高田が悲鳴に近い声で遼二に抗議した。
堂々巡りになってしまっている。
どこかで断ち切らなければいけないのだが、そんな時に限ってこの人に出番が回る。
「皆さん、橋本さんが居ないからってはしゃぎ過ぎじゃないですか」
火に油を注ぐ、吉川。
「・・・誰がはしゃいでいるって」
「皆さんの中に、僕と長尾が入っていたら心外だね、吉川君」
あきらかに怒りモードを発しているものの、席を立つこともなく抑えた静かな声だった。
力関係では圧倒的優位の進藤が、吉川にはやけに慎重に対している。
遼二はそんな進藤に不穏さを覚えるばかりだったが、慎重の理由(本編23話参照)がわかっている高田はもうすっかり耳を押さえて逃げの態勢に入っていた。
「皆さんと言えば、当然なが・・・」
「いや、待て!吉川君!もうそれ以上言わなくていい!
長尾だけじゃない、僕もまだ心身が回復していないんだ。わかったね。それ以上、言・う・な」
「・・・わかりました」
かろうじて力関係は守られたようだった。吉川は口を閉じた。
一旦は・・・。
ところがその後独り言のように呟いた吉川の言葉に、つい引っ掛かってしまった。
「でも・・・進藤さん意外だったな・・・」
「ん?何が?」
と、聞き返した進藤の眼前に、童顔の吉川の大アップが広がった。隈無く(隅々まで)。
「進藤さんでも気にされていたんですね。昨日また社長のお迎えヘマして、出張外されたじゃないですか。
代わりに橋本さんが付く羽目になって」
遼二はここで高田が耳を塞いでいた理由がわかった。恐ろしすぎる。
止めを刺すように吉川の声が響いた。
「それでこのはしゃぎようですからね。普通なら考えられない・・・キュッ!?」
「高田君・・・どうだ?進藤の様子は?」
高田は耳を塞ぎながら、そっと進藤の気配を窺った。
「・・・白目を剥いています」
「このガキ・・・考えられないのはこっちだ」
吉川も長尾の膝の上で白目を剥いていた。
Purururu・・・・・・
「はいっ!秘書課杉野です!お世話になっております。少々お待ち下さいませ。
〜♪♪〜〜♪♪〜秋月さん、プレイジングワールド社の・・・」
リンロンリンロンリンロ〜ン〜♪♪☆。,・〜〜♪♪・,。★。,〜
「呼び鈴が!来客のようです!見てきます」
他の四人は全員手が塞がっていて、遼二ひとり忙しかった。
この惨状でもテキパキと仕事をこなす、以前とは大違いだ。すっかり慣れていた。
「長尾さん、ロアール社の方がお見えです。
秋月さんに面会を希望されていますが、今日はアポイントを取られていないそうです。どうしますか」
「ロアール社・・・アポイントなしか・・・。わかった、来客室にお通しして。
秋月さんへの取り次は、後で僕が指示するから」
「はい!」
来客と聞いた途端、長尾の顔つきが変わった。
「高田君・・・おい!いつまで耳を塞いでいるんだ。ほら、吉川君を起こせ」
「ひやっ!はいぃ!・・・重っ」
長尾は吉川をうつ伏せのまま高田の膝にスライドさせると、こちらも白目を剥いて固まっている(気を失っている)進藤のところへ行った。
「進藤!起きろ!」
ピシャピシャピシャッ!
「んっ・・・」
「来客だ!行くぞ!」
「来客っ!!」
進藤も頬を叩かれるより、来客の言葉でガバッ!と身が起きた。
「杉野君はお茶の用意。高田君は、後を頼んだよ」
「はい!」
「はい。・・んしょっと・・・よっしかぁわ君?」
吉川は高田の呼びかけにも、器用に白目を剥きながらすやすやと眠っていた。
「もう・・吉川君!吉川君ってば!・・・仕方がないなぁ」
ぺっちん! ぱっちん!
ぺちぺち! ぺっちん!
「そら、もうひとつ」
ぱっち〜ん!
「・・・何の真似ですか」
「あっ!吉川君!気がついた!?」
「何の真似だと聞いているんですっ!!」
真っ赤な顔で高田の膝から飛び起きた吉川は、その勢いのまま詰め寄った。
「待って!待って、吉川君!違うんだってば!長尾さんに頼まれて・・・」
「長尾さんに?どうして長尾さんが出てくるんです!?」
「君、覚えてないの!?気絶してたんだよ!それで君を起こすようにって」
「気絶?起こす?・・・どっちにしろ、起すなら普通に起こしてくれたらいいでしょうっ!!」
いつもなら起こす(尻を叩く)のも長尾が一瞬の早業で決めるのだが、いかんせん代打の高田はまるでヘビの生殺しのような叩き方だった。
ぺっちんぱっちん、ぺちぺちぺっちん、痛いのか痛くないのか音まで中途半端で、おかげでやたら羞恥心だけは煽られる。
「もういいです!!今後一切!高田さんのことは知りませんからっ!!
明日提出の資料のチェックもご自分でして下さい!!僕は自分のPCから削除しておきます!!」
「よっ・・・吉川君!!酷い!!」
完全にヘソを曲げられてしまった。
高田は明日からどうしていいかわからない。
吉川が入って来るまでは、あの長尾・進藤の二人を相手に頑張っていたのに。いや、わかっているからこそ、もう吉川なしでは生きていけない。
「高田さん・・・どうしたんですか?」
来客室から戻った遼二は、高田と吉川の諍いにまたかと思いつつも、一応分の悪そうな高田の方に声を掛けた。
「杉野君・・・吉川君が・・・。僕は、ちゃんと呼びかけたのに、ゆすっても起きなくて・・・。
だから仕方なく・・・なのに・・・うっ・・・うううっ・・・」
高田は遼二の胸に縋って、さめざめと涙を流した。
この辺り、すっかり秘書課縦割りの力関係はどこかに行っている。
「高田さん、いつもの吉川さんの冗談ですよ。
吉川さんのことは、高田さんが一番良く知っているじゃないですか」
遼二の慰めに、高田はますますハンカチを濡らした。
「吉川さん」
呼びかけても全く応答のない吉川と泣き縋る高田。
遼二は二人を苦笑の面持ちで見ているしかなかった。
「どうしたの?珍しいわね。あなたがこんなに早い時間に誘うなんて。しかも平日に・・・何か嫌なことでもあったの」
「こっちがどうしてと聞きたいね。君にとって俺は、嫌なことでもなけりゃこんな時間から会おうともしない男なのかい」
「ふふふっ、男は正直だもの。内線もそうでしょ。普段は使わないのに、やけになったらどうでもよくなるんだから。
私はさしずめあなたのやけ酒の相手ね。長尾さん」
「・・・かなわないな。今日はずっと君の傍にいたい・・・」
まだ夜遊びには早い時間帯、某ホテルのラウンジに長尾がいた。
会話の内容から、彼女もA&Kの社員のようだった。
しかも昼間の嫌なこと(和也の一件)や、普段は使わない内線で彼女を呼び出したことなど、すっかり見抜かれてしまっている。
「ふうん・・・いいけど。明日も仕事があるのよ?」
「構わないさ、上に部屋を取る。・・・そうだな、明日は二人で休暇を取ろうか」
「ばかなこと言わないで。ちょっと待ってね。遅くなることだけ家に電話しておくから・・・」
彼女がバッグから携帯を取り出した。
「どうぞごゆっくり。それにしても女性の携帯はどうしてそんなに飾りがごちゃごちゃ・・・うわああっ!!」
「きゃぁっ!何よ、いきなり大声で。しぃっ!周りに迷惑でしょう」
電話をしようとしたところに長尾から大声を上げられた彼女は、後で掛け直すつもりなのか携帯をカウンターテーブルに置いた。
「・・・おい、それは何だ」
「何って・・・ああ、これ?」
彼女は再び携帯を手に取り自分の頬にくっつけるようにして、実に嬉しそうな笑顔を長尾に向けた。
某高層マンションの一室。ちょうど夕陽が沈む頃、空が赤く燃えている。
「見晴らしがいいね、赤焼けの空が綺麗だ。会社も眺望は良いけど、殺伐として感慨もない」
「疲れていらっしゃるの?」
「疲れてる?この僕が?疲れていたらこうして君を抱けるものか。僕は美しいものには全身全霊を掛けるんだ。
沈み行く夕陽の自然美さえも、君の前では単なるアクセサリーに過ぎない」
身悶えしてしまいそうな殺し文句もどこで見透かされているのか、あっさり彼女に受け流されてしまった。
そればかりか一番現実逃避したい部分を衝かれてしまった。
「あなた、今日は社長さんと出張のはずじゃなかったの?」
「・・・他所の会社のことを、よく知っているね」
「何を言っているのよ、あなたが前に言っていたんじゃないの。
ああそうね、予定は未定だったわね。フフッ、進藤さんっ」
「・・・お見通しなんだね。あんまり出来過ぎる女性は敬遠されるよ。
でも今は君が恋しい、何を言わずともわかってくれる・・・抱いていたいんだ」
進藤も会社の終業とともに直行したのだろう、陽も沈みきっていない早い時間から彼女のマンションに上がりこんでいた。
「あ・・んっ・・・せっかちね。いきなり来るっていうから、私も急いで帰って来たのよ。
せめて着がえさせて。あなたも上着くらい脱いだら」
彼女は進藤の上着をハンガーに掛けると、自分もスーツの上着を脱ぐべくまずポケットの中身をテーブルに置いた。
ハンカチと小銭入れと携帯・・・。
「あれっ、機種変したんだね。今度のは白・・・!!!」
進藤はテーブルに置かれた彼女の携帯を手に取ろうとして、ぎょっ!!とした。
「なぁに、携帯?ええ、この間ね。あ、触るのはルール違反よ」
「だっ・・誰が触るか!!あれは・・・何だ」
何故かテーブルから距離を置いて、進藤は彼女の携帯を指差した。
「あっ、これ!そうそう!これね、昨日あなたの会社の営業部の人が来てね、
社内の非売品ですがよろしかったらどうぞって、頂いたのよ!」
可愛いでしょう!と、彼女はたくさんついている携帯ストラップの内の1本を摘んで、進藤の目の前に突き出した。
〜☆"♪♪☆♪♪☆"♪〜好き好き!好き好き!イエ――イッ!!ジャジャン♪♪"!!
「キャーッ!!最高っ!!イエーィ!!」
「ねぇねぇ!次、何歌うー!?」
「高田さ〜ん、もぉ、ほらほら!みんな高田さんの応援団なんだから!」
「だけど秘書課でも、落ち込むようなことあるのね!?」
「はあぁぁ〜っ・・・。君たちはいいよねぇ・・・」
某カラオケボクッス。高田が同僚の女性社員たちに励まされていた。
吉川の件がよほどショックだったようだ。
普段は明るく騒ぐのに、今日はため息ばかりだった。
「ああ、ごめんなさい。外から見たら秘書課って優雅じゃない?つい思っちゃうのよ。
そうよね、働いていれば嫌なことのひとつやふたつあるわよね!」
「さあっ!元気出して!!次は高田さんよ!歌って、歌って!」
マイクを渡されて、高田私設応援団手作りの花吹雪の中、重い足取りでステージに向かった。
「キャーッ!!高田さん!!待ってましたぁ!!」
パァ〜ン!!\★/´,。・´\☆/〜・。´\★/。,・
「イエィッ!!大統領!!カッコイイー!!」
拍手と歓声、クラッカーまで鳴り響く。
彼女たちの献身的な元気付けに、ようやく薄っすらと高田の顔に笑みが浮かんだ。
〜〜♪♪′♪♪′〜〜♪♪′〜〜
しかし、前奏が流れはじめ長い睫毛を伏せ歌い始めた途端・・・
「※何でもないような事が〜 幸せだったと・・・うっ・・思ぅ・・・ううっく・・・」
選曲があまりにもドツボにはまって、また泣き出してしまった。
「高田さん・・・他へ!カラオケは、今は精神状態が良くないから他へ行きましょう!」
「そうね!そうしましょう!ここを選んだ私たちが悪かったわ」
「僕はもうどこでもいいよ。君たちとずっとこうしていられれば。明日は会社へ行かない・・・休む」
「ああ、高田さん・・・あらっ、前髪に花びらが。まあ、花びらまで涙に濡れて。
可哀相に・・・どこか落ち着くところがいいわね。どこにしようかしら・・・」
彼女がポケットから携帯を取り出した。検索で店を探すようだった。
「私も探してみるわ」
一人が携帯で検索を始めると、あっという間に全員が携帯を手にしていた。
ピンク、イエロー、ブルー、彼女たちの携帯は高田の美意識にマッチして、色とりどりで華やかだった。
「・・・あう・・・あうあうっ・・・あわわわわっ!!!」
「どうしたの?高田さん?」
「何か?」
「どうしたのから?」
「ん?あっ!これじゃない!?」
「これ!?」
「そう!それよ!」
「なぁんだ、高田さん。これ知らなかったの?秘書課にいて知らなかったなんて、本家さんがいらっしゃるのに」
ニコリ笑う彼女たちの携帯には、お揃いのストラップが他のストラップに混ざって付いていた。
終業時間も随分過ぎて、静まり返った社内。
電気の落とされた廊下に、時折各部課の戸口から部屋の明りが漏れ出る。居残って仕事をしている社員たちだ。
A&Kカンパニーは、基本残業はない。
就業時間の午後五時を過ぎると、各部課共有部分の電気は全て落とされる。
それ以降仕事をするのは本人の自由なのだ。
「吉川さん、まだ仕事されるのですか。もう九時回ってますよ」
「君こそ帰れ。余計な遠慮を覚えるより、仕事をひとつでも早く覚えろ。これは僕の仕事だ」
「遠慮なんかじゃありません。吉川さんの仕事を手伝うのも俺の仕事です」
今日はみんな早々と帰った秘書室で、吉川と遼二の二人が居残って仕事をしていた。
「・・・手伝ってもらうことなんてない」
「そうですか。それなら、吉川さんの仕事を見ています。ひとつでも早く仕事を覚える一番の近道ですから」
「冗談言うな!僕が働いているのに、君が見ているだけなんてそんなバカな話があるか!
コピー50枚ずつ10部。耳は揃えろよ。
それから資料室のPC使っていいから、先月のソレイユの来客数を性別・年齢別にデーターに振り分けたものをこのCDに録って」
「はいっ!」
遼二はようやく仕事が見えてきていた。
このコピーは、明日の朝長尾が営業部との打ち合わせで使う資料だ。
CDに録るのは、高田が書類にまとめるデーターの資料。
そして吉川は明後日から社長付けに復帰する進藤のために、最新の顧客データーをチェックしているのだ。
たぶん吉川は、長尾たちに言われてしているわけではないのだろう。
資料室のPCでデーターを作成しながら、遼二は以前吉川に言われた言葉を思い出していた。
―仕事は出来る者がさせてもらえるんだ。覚えておけよ―
いつか彼らのように仕事≠させてもらえるように。
そのためにいまの仕事がある。
「ちびちび吉川君v≠諱v
「ちび・・ちびちび吉川?」
長尾の目の前で、吉川が彼女の頬に密着している。小生意気な姿そのままに。
「吉川さんこの間の社内癒し系キャラコンテストで1位だったのよ。
知らなかったの?あなたの後輩なのに」
「知るか!!そんなもの!!いやそれよりも!!あいつのどこが癒し系だ!!」
「だって吉川さんって小動物系じゃない。小さくてお利口で可愛くて、リスかハムスターよね、絶対!
いいわよねぇ、長尾さんは。いつも傍で癒されて」
彼女はちびちび吉川君v≠手に包み、愛しそうに頬ずりした。
「ちびちび吉川君v≠諱v
「ちっ・・ちびちび吉川!?」
プランプランと、進藤の目の前で吉川が揺れている。
「あなたの会社のことじゃない、知らなかったの?非売品の上に、限定100個なんですって?
すごい争奪戦らしいじゃない。ねぇ、あと10個、何とかならない?」
ああ可愛いと、彼女はちびちび吉川君v≠口元に引き寄せて、進藤の殺し文句にさえ見せたことのない表情でキスをした。
「ちびちび吉川君v≠諱v
一斉に彼女たちお揃いの携帯ストラップが高田に向けられた。
「ちびちび吉川君v=E・・・・・だらけ!!」
「主催の企画部が1位記念に作ったのよ。ただでさえ限定品で数少ないのに、
営業部が得意先のお土産に持って行くものだから、私たち手に入れるの大変だったんだから」
「高田さん、吉川さんと一番の仲良しさんなんでしょう?ほら、吉川さんが元気出してって言っているわよ」
ほらと見せられたちびちび吉川君v≠フ吉川は全然怒っているふうもなくて、高田は躊躇いがちに手を伸ばすと童顔の赤い頬を指先でそっと突いた。
午後10時を回ったA&Kカンパニー秘書室。
リンロンリンロンリンロ〜ン〜♪♪☆。,・〜〜♪♪・,。★。,〜
「呼び鈴?こんな時間に・・・吉川さん、ちょっと見てきます」
こんな時間にという遼二たちも、まだ居残っていた。
呼び鈴は、吉川に差し入れを届けに来た企画部の女性社員だった。
「ありがとうございます。わざわざすみません」
吉川は丁寧な敬語で、差し入れを受け取った。
女性社員は吉川の言葉遣いや見た目からしても、かなり年上のようだった。
「お礼を言うのはこちらの方よ。あなたのおかげで、うちの社内企画は大当たりよ。
広報課を出し抜けたわ。それじゃ吉川君、無理しないようにね。明日のお昼は、よろしく」
「はい。お迎えに上がります」
にこやかな笑顔で卒なく。そして広いストライクゾーン。
吉川も女性には手厚かった。
「・・・ごめん、帰るよ」
「どうしたの?急に・・・」
ラウンジのカウンター席では、長尾が浮かぬ顔でグラスを空けていた。
「明日、朝一で営業部と会議があったんだ。・・・それに明日中に片付けなきゃいけない仕事もあるし・・・。
こっちから誘っておいて申し訳ない」
「それじゃあ仕方ないわね」
割にすんなり彼女は納得した。
長尾は片肘をつきながら、連絡する必要のなくなった携帯をバックに仕舞う彼女を見ていた。
たくさんついている携帯ストラップのちびちび吉川君v≠セけが長尾の目に入る。
何となく「明日仕事でしょう」と、非難されているように見えた。
いや例えそれが気のせいであったとしても、今日の俺は全てにおいて出直しだ。
長尾は自分を戒めながら、彼女の肩に腕を回して抱き寄せた。
「悪い・・・。埋め合わせは必ずするから」
「うふふっ。本当は今日のようなあなたも悪くないんだけど。
でもそれとこれとは別ね。埋め合わせ待ってるから」
「・・・帰る」
「あら、お人形さんにヤキモチ?」
彼女はからかうように、何度も進藤の目の前でちびちび吉川君v≠ノキスをした。
彼女の唇が当たるたび、ちびちび吉川のほんのり赤い頬がより赤く染まるように見える。
じっと見ていると、いつもの小生意気な顔が浮かんで「そんなだから社長のお迎えヘマするんです」幻聴まで聞こえる始末だ。
「例え人形でも忌々しい。寝取られた気分だ」
「まあ、本当だったの!嬉しいわ、吉川君効果ね。あなたにヤキモチを焼いてもらうなんて。
たまには打たれて、反省しなさい?」
彼女は携帯をテーブルに戻した。
「・・・わかったよ。ごめん、明後日からまた社長付きに復帰するんだ。
君を寝取られるような男にならないために、今日は帰る」
「そう、なら仕方ないわね。私も、そんなあなたが好きだわ」
「ごめんね、君たち・・・。僕、帰るよ」
「高田さん・・・」
「ありがとう、もう大大丈夫だよ!君たちのおかげで、元気出たよ!
明日はどうしても会社に行かなくちゃいけなかったんだ。僕だって一応仕事持ってるからね」
「一応じゃないでしょ。高田さんの書類作成のセンスは社内でも有名よ」
「高田さん行くところ花びらが舞い・・・その後知ってます?」
「その後?」
「花びらを手本の雛形に変える高田マジック。って、言われているんですよ」
「それだけ書類作成が早い・綺麗・わかり易い・部課を超えて皆のお手本になっているということです」
さすがは高田私設応援団。彼女たちは単に騒がしいだけでなく、高田の真髄を心得ていた。
明日は書類にまとめるデーターのチェックからしよう。
いつも吉川君にしてもらって、本来は自分でしないといけないのに・・・これからはちゃんとするね。
殊勝な高田の気持ちが通じたのか、彼女たちのちびちび吉川君v≠熹笑んでいるように見える。
カラオケボックスは、皆の微笑でいっぱいになった。もちろん高田の笑顔も。
紙で出来たバスケットに見栄えよく盛り付けられたロースカツサンドとスイーツなフルーツのサラダ。
「杉野君、お腹すいただろ、君も食べろ」
「えっ?でもそれ吉川さんが・・・いえ、はいっ、いただきます!」
「うん」
「お茶をいれてきます」
「・・・おい!」
「はい?」
「これは・・・貢物なんかじゃないからな」
「わかってます。企画部の社内コンテストで1位を取ったお祝いでしょう?」
「何だ、知ってたのか」
「真紀から聞きました。やっと手に入ったってちびちび吉川君v°サ奮して俺に見せてくれました」
「ふん・・・食べたら、もうひと頑張りするぞ!」
「はい!」
深夜に近づこうかとする秘書課秘書室。
明日先輩たち三人がすぐ仕事に取り掛かれるように、その仕事の下準備をする。
吉川と遼二の作業は続いた。
片やすぐ不貞腐れ、打たれ弱く、泣き虫な先輩たち三人長尾・進藤・高田。
憂さ晴らしに早々と遊びに出たもののちびちび吉川君v≠ノ男のステータス(社会的地位・身分)が甦り、結局それぞれに反省したようだった。
癒し系でA&K女性社員に大ブレイクのちびちび吉川君v
彼ら三人にとっては、戒め系で大ブレイクのちびちび吉川君v≠セった。
※楽曲名 ロードより
※作詞者 高橋ジョージ(THE虎舞竜)
実物ちびちび吉川君vストラップ″りました^^
写メなので映りがいまいちですが、実際はコロンさんの絵柄の色合いが明るいので、
非常に良く映えています。
コロンさんとLuckyの、世界に二つだけのオリジナルストラップです^^
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